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前回(第7回定例会)のときに、このテーマを取り上げたのですが、SOAP練習へ入る前の部分、つまり薬剤師としてどんなケアをすべきなのかであるとか、薬剤師の医療の中での役割は何かとか言う部分でとても盛り上がってしまいまして、肝心のSOAP遊びの方は例題の説明だけに終わってしまいました。とても残念ではあったのですが、しかし、この基本的部分、つまり、「薬剤師がどんなケアを患者さんに提供していくのか。」というところがしっかりしていないと、SOAP分析の練習だけしても、POSが出来るようになるわけではないということは確かなので、前回のワークショップは非常に有意義なものであったと考えています。
前回と重なる部分もあるかとは思いますが、一応POSについて一通り振り返ってみましょう。
POSの創始者である weed先生はPOSのことを次のようにおっしゃっています。
Problem Oriented Systemとは、患者の持っている医療上の問題に焦点を合わせ、その問題を持つ患者の最高の扱い方(best patient care)を目指して努力する一連の作業システムである |
当初、日野原先生がこのWeed先生の御著書を訳されたときには、POSのことは「POシステム」と表現されています。あくまでこれは一つのシステムであり、医療を行う上での一つの方法論であるということなのだと思います。
それではPOSとは何かという質問に端的に答えるとすると、それは、「物事を問題点毎に整理して一つ一つ解決していこうとする考え方」ということです。
そして「問題点」とは何か。それは、今取り組んでいることのテーマ、ケアをする上で着目したポイント、考える上で焦点をあてたところ、というような意味に捕らえてくだされば良いかと思います。
それでは、POSを考える上でのポイントをいくつかあげてみたいと思います。
プロブレムはいわゆるマイナスの問題点だけではない
よく聞く議論で、「POSはマイナスの問題点しか取り上げられないが、フォーカスチャーティングなら何でも取り上げられる。」というようなことがありますが、私は、そうではないと考えています。つまり、そもそもPOSのプロブレムは、マイナスの問題点だけを取り上げることを想定しているのではないと思います。あるいは、医師以外の医療職がPOSを有効に活用していくためには、プロブレムをこのように広く捕らえていった方が、良いと考えています。
POSと、フォーカスチャーティングとは、それぞれの特徴をうまく活用することができれば、どちらも優れたシステムであると思います。一言で言えば、経験豊かなスタッフがそろっている、つまり、ベテランが多数を占める現場で、より効率的にケアを計画管理していこうとする場合には、フォーカスチャーティングの方が効果的であるし、これから取り組んでいこう、あるいは若手が中心で、スタッフのレベルを引き上げるための教育という観点が重視されている場合は、POSの方が優れていると思います。
医療は概念に対して行うもの
次にプロブレムを考える上で大切なことは、医療は概念に対して行うものであるということです。なんとなくこの患者さんに今ケアすべきことはこのあたりかなと見当はついても、それがケアを提供するわれわれ医療者の側にきちんと概念として認識されていなければ、POSは出来ないということです。いや、POSだけでなく、何をしたら良いかがわからないということになります。当然アセスメントは出来ませんし、プランも立てられません。
この医療概念を自分の中で確立するためには、その前提として、自分が、あるいは薬剤師がどんな医療を行おうとしているのかという医療に対する理念が明確になっていなければ、なりません。単に疾病や症状を知識として知っているだけでなく、それに対して薬剤師である自分がどのように関わっていくべきなのか、どのように関わっていくべきと考えているのか、このあたりがしっかりしていないと、ケアを行っていくことは出来ません。「POSは難しくて…・。」という方の中には、POSが難しいのではなくて、そもそも自分の医療に対する理念が明確になっていないという場合も多いのではないのでしょうか。
そしてこれは実際にSOAPの中でも問題になってきます。自分たちが何をすべきか、何に対して責任を持つべきなのかがわかっていないと、そもそも自分たちの問題ではないプロブレムを取り上げてみたり、絶対に出来ないプランを立ててみたりすることになります。これは全く無意味なことです。「自分たちが責任を持てることを取り上げ、自分たちが出来ることをプランニングしていく。」というのが大原則です。自分たちは何に対して責任を取っていけば良いのかというところまで含めて、医療に対する考え方をはっきりとさせておく必要があります。
診断は医師だけのものではない
診断というと、普通医師が患者さんを診断する医学診断を思い浮かべることと思います。しかし、看護婦の皆さんが自分たちの看護すべき状態を概念化し、それを体系付けて行った看護診断があるように、自分たちが関わるべきことを概念化し、今目の前にある状況がその体系の中でどの概念に当てはまるかを判断していくことを診断と呼びます。つまり、診断は医師だけのものではないのです。
それでは、薬剤師の診断はどんなものなのでしょうか。これは残念ながら、まだ出来上がっておりません。POSに取り組む全国の薬剤師たちが、今一生懸命作ろうと試みておりますが、まだまだこれからの分野です。当然当研究会でも、POSというものを一つの大きな柱に据えておりますので、やがては診断体系に関する研究成果を発表していきたいと考えてはおりますが、今のところまだそこまでは至っておりません。
薬剤師の診断に関しては、これまで、いろいろな方が、薬学診断であるとか、薬学的診断であるとか、薬剤診断であるとか、あるいはファーマシューティカルケア学的診断などと、いろいろな呼び方をしています。真のファーマシューティカルケアを「服薬ケア」と名付けて研究発表をしております私としましては、「服薬ケア診断」と呼んで行きたいと考えております。しかしこれは呼び方だけの問題ですから、やがて研究が進んで定着してくれば、おのずと決まってくることでしょう。
POSとは薬歴の書き方の決まりではない
実際の窓口対応はこれまでどおりで、薬歴を書くときになって初めてPOS、POSと騒いでみても、POSが出来るようになるわけではありません。それではもう遅いのです。POSとは、あくまで医療を行う上での方法論であり、患者さんと相対しているときから始まっているのです。前回のワークショップで出た意見にもありましたが、保険薬局の場合には処方せんを受け取ったときから既にPOSは始まっているのです。一連の作業の中ですべてを貫く考え方として、POSというものがあるのです。
プロブレムの広さはセンスの問題?
これは、実際にPOSに取り組んでみないとわからない問題なのですが、プロブレムを取り上げるときに、どの程度の広さでプロブレムとして取り上げるかで、それに対するケアが違ってきてしまうのです。
具体的な例を挙げるとすると、たとえば糖尿病の患者さんがいます。この方のプロブレムを大きく「糖尿病」とするのか、「糖尿病の治療のための血糖管理」にするのか、もっと小さく「血糖コントロールを成功させるための手技の修得」にするのかによって、それに対する我々医療者のすべきことは違ってきます。実際にはもっと微妙な問題が多いのですが、このプロブレムの取り上げる広さの問題はその結果に大きく影響してきます。
薬剤師のPOSでは有名な、札幌厚生病院の早川先生に日本POS医療学会でお会いしたときに、次のような話をお聞きしました。これはその後出版された名古屋大学の中木高夫先生の本に収録されておりますので、お読みになった方もあるかとは思います。早川先生が中木先生と対談された時に出たお話なのですが、その中で中木先生がおっしゃるには、「プロブレムの広さはセンスの問題でしょう。」ということでした。言葉を換えると、これがベテランと新人の差になると言っても良いかもしれません。適切なプロブレムを適切な範囲でもって、取り上げる能力が必要になるわけです。
POSの約束事として、「SOAPはプロブレム毎に」という大原則があります。つまり、プロブレムを細かく取りすぎると、その数だけSOAPを書かなくてはなりません。逆に大きく取りすぎると、書かなくてはいけないSOAPの数は減るのですが、今度は問題の焦点が定まらずに、アセスメントできなくなってしまいます。つまり、考えがまとまらなくてSOAP自体が書けなくなってしまうのです。
このセンスは、経験によってやがては磨かれていくのですが、実際の患者さんに対する経験のみでそれだけの領域に達するには、それこそ何ヶ月、何年といった時間がかかってしまいます。また、そこに達するまでの間に接した患者さんのケアは、常に高いレベルで安定したケアを行えるわけではないことになります。
しかし、心配することはありません。今日のテーマである「SOAP遊び」の練習を繰り返すことにより、SOAP分析の練習と共に、プロブレムの取り上げ方の練習も出来ますので、これを繰り返すことによって、きっとセンスも磨かれていくはずです。そう、やる気さえあれば、実際の患者さんに迷惑をかけることなく、そしてある程度短時間に一定のレベルまで持っていくことが出来るのです。
さあ、がんばってやってみましょう。
それでは実際にSOAP遊びに入るわけですが、その前にもう一度だけSOAPとは何かを振り返ってみましょう。ここでは、どの本でも書かれている当たり前のことに加えて、実際に薬剤師がSOAPを書いていく上での注意点、工夫点なども取り入れてあります。
《SOAP形式》 |
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#問題点(プロブレム) | 薬剤師の立場から見出されるケアすべき点。着目点。 |
S (Subjective) | 患者さんが直接提供する主観的な情報。 患者さんがお話くださった内容。 |
O (Objective) | 客観的事実。薬剤師の目から見た患者さんの様子や、認識の状態。 |
A (Assessment) | それらの情報・事実から導き出される評価、判断。 |
P (Plan) または、P/D(Plan&Do) |
ケアの計画。あるいは実際に行ったケア。 |
これはどこでも見るSOAPについてまとめた表です。それでは内容を一つずつ見ていきましょう。
プロブレム
プロブレムについては先ほど申し上げましたように、いわゆるマイナスの問題点だけでなく、薬剤師の立場からみた着目点という捕らえ方が大切だと思います。
ここでもう一つ大事なことは、「薬剤師の立場から見た」というところです。我々薬剤師が結果に対して責任を持てることを扱うというのが、ファーマシューティカルケアの原則でしたよね。自分たちで解決できないことをただ取り上げるだけ取り上げても、患者さんのQOLの向上のためには、何の貢献も出来ません。
しかし、開局薬剤師の場合は、この点でも少し注意が必要です。それは、保険薬局という医療現場では、医療職としては薬剤師のみでケアを行わなければならないからです。どんなことを患者さんから相談されても、一旦はそれを受けなければなりません。そんな場合はどうすれば良いかと言うと、プロブレムとしては取り上げて、プランの中で他の専門職への橋渡しをしていけば良いのだと思います。内容によっては、行政の福祉担当者を紹介したり、ソーシャルワーカーのような方の助けが必要な場合もあるかもしれません。いずれにしろ、どうすれば良いかわからずに相談してきてくださった方への答えとしては、責任を持って他の専門職を紹介することも、立派なケアの一部だと思います。
S (Subjective)
これは一番わかりやすいでしょう。基本的には患者さんがおっしゃったことがそのままSになります。
O (Objective)
客観的事実と書いてありますが、この客観的というのは厳密に言うと難しい面もあります。なぜかというと、「担当した薬剤師の目から見た客観的事実」といった場合、その薬剤師の主観は入っていないのかということになってしまうからです。しかし、特に薬識を指標にしてPOSを考えていこうとしたときに、「患者さんの薬識はこうであろう」という部分をある程度客観視出来なければ、そこから先の実際のケアに入って行けなくなってしまうのです。逆に言うとこういう言い方も出来ます。患者さんの薬識をきちんと捕らえるためには、こちらが出来るだけ白紙に近い状態で、あるいは、出来るだけブロッキングを避けた態度で、患者さんからお話を聞く必要があります。そしてそれがうまく行った場合は、かなり客観的に患者さんの認識を把握出来たことになります。したがって薬識というものをきちんと捕らえられるようになっていれば、ある程度の客観性は保証されているということになると思うのです。
さて、通常このOは検査値のことであると考えられていることが多いかと思います。しかし、医師が診断をつけていく場面では、客観的なデータとしては、ほとんどが検査値などの数値になるとは思いますが、我々薬剤師が、特に薬識を指標として考えていく場合、薬識に影響を与えない数値は、データとしては意味をなさないものとなります。血圧だとか、血糖値だとか、体温だとか、患者さんになじみのある数値で、薬識の形成に影響を与える数値でなければ、ここで取り上げる意味はありません。
A (Assessment)
アセスメントには、得られたSやOからどのように考えたか、どう判断したか、を書けば良いのですが、実際にSOAPを書く上では、一番難しいところかもしれません。なぜならば、ここがSOAPの、そしてPOSの神髄といっても良いところだからです。つまり、どう考えたかということは、そもそも医療に対してどんな理念を持っているかをそのまま反映するからです。
違った言い方をすると、「プロブレムはアセスメントの親玉である。」というふうに言えると思います。どうアセスメントしたかは、とりもなおさず何をケアすべき点と考えているかを表しているからです。したがって、アセスメントが書けないということは、SとOは集めたは良いけれど、何をケアすべきかわかっていないということになります。
P (Plan)
そしてプランです。ここでは、P/D(Plan&Do)という書き方もしてみました。このプランの考え方は、少し工夫を要するところだと私は考えています。
まず、その話の前提条件として、次の2点をあげておきたいと思います。
一つ目は、「プランとしてあげることは、自分で責任を持って結果を出すことが出来ることに限る」ということです。これは、POSそのものの前提条件でもありましたね。自分たちが責任を持てる事柄をプロブレムとして取り上げるわけですから、当然その結果行うことも、自分たちが責任を持って結果を出せることでなくてはなりません。
もう一つは、「プランを立てたことは、必ず実行されなければならない。」ということです。「一応プランだけは立てて見たけど、どうせ出来ないよ。」「プランは立てたし、私は実行したかったんだけど、結局出来なかった。」ではだめということです。これも当然といえば当然のことです。結果を出すのがファーマシューティカルケアなのですから、「計画だけは立ててみたんですけど…。」ではだめですよね。
さて、そこで考えてみて欲しいのですが、医師は診察しながらカルテを書いてその場である程度の治療方針あるいは、診断を確定するための方針を立てて、その場でカルテは書き終えています。しかし、我々が業務を行うときの実際を考えてみると、薬歴は患者さんがお帰りになった後に書くことになります。したがって、書いている時点で、プランを立ててもその実行は出来ないわけです。特に保険調剤薬局では、次にその患者さんと会うことが出来るのは、2週間か1ヶ月後になってしまいますから、前提条件に反することになってします。
それではどう考えるか。実際は患者さんが帰ってから書くにしても、医師と同じように、その場で考え(アセスメント)、瞬時に計画を立て(プラン)て行ったことを、「今どんな風に考え実行したかの記録を残す。」という意味で書いた方が、すっきりすると思うのです。ということは、プランには実際に行ったこと(Do)を書くことになります。
これはPOSの本質を良く考えた上で、薬剤師の業務の実態に合わせて工夫した部分ですが、私はこの方がPOSをうまく活用できると考えています。
もちろん違った考え方もあります。早川先生の本では、「薬剤師がその場で行ったことはOに書く。」としています。それはそれで、合理的なわかりやすい考え方だと思います。特に、入院患者さんを対象とした病棟業務では、自分たちが行ったことも、客観データの一つとして扱って、すべてをアセスメントして今後のケアに結び付けていくというこの考え方は、正しいと思います。
しかし、実際に私がいる保険調剤薬局の現場では、患者さんの薬物治療の時間的流れの中で、我々薬剤師が関われるのは、2週間か1ヶ月ごとの飛び石的は瞬間ですので、自分たちが患者さんに対して今行ったケアを含めてアセスメントして、次につなげることは実際には出来ません。次に来るときは、その患者さんの薬識は大きく変わっている可能性の方が高いわけですから。したがって、そういう条件の下でPOSを考えるなら、今日のケアだけの範囲で、その中でどう考え、何をしたかを(Plan&Do)としてPの中に書いていった方が現実のケアの記録としては、より実践的だと思うのです。
ただ、本当に次にその患者さんがいらしたときにやって欲しいこと、次に担当する薬剤師に、聞いて欲しいことなどもあると思います。その場合は、Pの中に次にやって欲しいことは四角く囲んで、他の部分と明らかに区別するようにしています。
それでは実際にSOAP遊びをやってみましょう。簡単です。「日常の中のさまざまな出来事を式で書き表してみて、SOAP分析の練習をする」のです。これSOAP形だけのことなのですが、いくつか効果的に練習を進めていく上でのポイントをお話してみましょう。
取り上げた事柄のうち何に焦点をあてているかを考えながら、必要ならSやOを入れ替えてみる。
SOAP遊びは、あくまで「遊び」と付いている以上、すべて架空のお話です。実際の患者さんを前にしては出来ないことも、練習のためにいくらでもすることが出来ます。まずは、とにかく書いてみて、書いているうちに、もっとこうした方が焦点が定まるなとか、最初はこんな風に思ったけど、やっぱり違うなとか、いろいろ考えたときに、そのたびにSやOを自由に入れ替えて試してみることが出来ます。
Pは必ず実現の可能性のあるものにする。
これは、POSをやっていく上での原則でした。SOAP遊びはあくまで架空の話ではありますが、だからこそ、練習という意味で実現の可能性のあるPを書くようにしてください。全く荒唐無稽なPを導いて良しとしていると、自分の頭の中で考えたことを分析していく練習にならなくなってしまいます。
Pは問題解決のために前向きなものとする。
これも気を付けなくてはならないことなのですが、架空の話であると、S、O…といろいろ考えているうちに、その考えの流れに流されてしまって、問題解決しないPへといってしまうことがあります。仮にも問題解決を目指してPOSをやっていくわけですから、たとえ練習と言えども問題が解決していく前向きな方向のPに結び付けていってもらいたいものです。POSのためにPOSしているわけではありません。あくまで実際の患者さんであれば、QOLの向上という最終目的があるわけですので、アセスメントをそちらの最終目的に近づいていく方向で考える癖を付けていく必要があります
SOAP遊びの実例とその考え方
S) | ||
O) | ||
A) | ||
P) |
例 | S) | |
O) | ||
A) | ||
P) |
それでは実際にSOAP遊びの実例で、やり方を見ていきましょう。
例 1 | S) | 車が汚れていて気になる。 |
O) | このところ天気がころころ変わるのでつい洗いそびれている。 | |
A) | このままじゃ、気持ちがわるいままだ。 | |
P) | 明日絶対に洗いにいこう。 |
これを書いた人の気持ちを想像してみましょう。感情への着目です。
結局一番言いたいことは、「気持ち悪いから車を洗いたい」ということですよね。そうすると、PがこのSOAP遊びにメインになります。ここに収束するように、SやOやAを考えていけば良いわけです。するとproblemは「天気の不安定さに関連する車の汚れ」でしょうか。それらを考慮していくと、
S) | また天気悪くなりそうだし、車洗うのやめちゃった。 | |
O) | しばらく洗車していない。 | |
A) | でも車がこう汚いと、どうも気持ち悪い。 | |
P) | 明日はたとえ天気が思わしくなくても洗車をしよう。 |
の方がすっきりしますよね。
例 2 | S) | 久しぶりに気持ちよい朝だ。 |
O) | ここのところ雨ばかりだった。 | |
A) | こんなに気分がよいのは天気がいいせいだろう。 | |
P) | さあ布団を干そう! |
これは、ら、このPは出てきませんね。
A→Pが飛躍していますね。このSとOとAか「布団を干そう」をプランとしたいなら、プロブレムは「雨の日が続いたことに関連する湿った布団の不快感」でしょうか。それなら、
S) | 今日は久しぶりの良いお天気だ。 | |
O) | このところ雨ばかりで、布団をずっと干していない。 | |
A) | 布団が湿っていて気持ち悪いなあ。 | |
P) | よし!今日は布団を干そう! |
の方が無理がないですね。これは、「布団を干そう」というPに持っていくために、Oの中に現状布団を干していないという事実を加えたわけです。布団を干していないという事実に着目することによって、布団を干したいと思う動機である「気持ち悪いなあ」というアセスメントを引き出しているわけです。
例 3 | S) | 子供の泣き声がする。 |
O) | ずいぶん長いこと何か叫んで泣いている。 | |
A) | 迷子にでもなったのだろうか。そう言えば親の声がしない。 | |
P) | ちょっと見てこよう。 |
ただ、「そう言えば親の声がしない。」は、方がいいかもしれません。アOに入れたセスメントしてから「そういえば」気付いた事実は、気持ちとしてはAに入れたいのですが、分析をすっきりさせるためには、事実はやはりOに持っていった方が、いいときがあります。つまり親の声がしているところで泣き声がするだけなら、駄々をこねているのか、あるいは何か叱られているのかもしれません。親の声がしないという事実に着目して始めて、迷子になったのだろうかというアセスメントが引き出せるわけです。
すると、
S) | 子供の泣き声がする。 | |
O) | ずいぶん長いこと何か叫んで泣いている。親の声はしない。 | |
A) | 迷子にでもなったのだろうか。 | |
P) | ちょっと見てこよう。 |
ということになります。
例 4 | S) | SOAPむずかしいな。 |
O) | 4つ作るのに結構時間を費やしている。 | |
A) | 簡単と思っていたがやってみると案外難しい。 | |
P) | もう一度じっくり勉強し直そう。 |
これは、
S) | やっと4つSOAP遊びが出来た。 | |
O) | 4つ作るのに結構時間を費やしている。 | |
A) | 簡単と思っていたがやってみると案外難しい。 | |
P) | 出来るようになるまで練習を続けよう。 |
と言う感じの方が、分かりやすいかもしれません。何故かというと、お勉強している段階では簡単そうだと思っていたのに、実際やってみたら難しかったわけです。そしてまた勉強し直したのでは、いつまでたっても「SOAPが難しい」という問題は解決しないのかなと考えたわけです。分析は間違っていないのですが、前向きのPとしては、もっと考え方があるのではないでしょうかということです。
SOAP遊びは、絶対的な正解が一つとは限らないときもあります。また、問題点の切り口を少し変えてみただけでSやOやAが、がらっと入れ替わってしまうこともあります。この時の着目点としては、自分の考えがストレートに分析の中に表われているかどうかということが一つ。そしてもう一つは、どう考えてこのようなプランに結びついたのかを他の人が読んでみてうまく伝わっているかという点です。そして要は目の前の出来事から焦点を絞って、いかに分かりやすく分析パターンを抽出できるかということですから、気楽に、たくさんやってみた方が良いと思います。
SOAP遊び、SOAP分析が上達するコツは、他人に見てもらうことです。考えたことというのは自分の頭の中の話ですので、他人に読んでみてもらって、自分の考えたことがちゃんと伝わっているのか確認する必要があります。自分でやってみたときは、ぜひどなたかに見てもらってください。
実際にPOSを用いてケアを行っていく上での注意点
それではこれから実際にワークをやっていただくわけですが、その前に現場で実際の患者さんに対してケアを行っていく上での注意点を少しだけあげてみたいと思います。これらの注意点を気を付けていかないと、せっかく始めたのに「POSがうまくいかない」とか、「この忙しいときにこんなことやっていられない」になってしまいます。
プロブレムは欲張らない。
POSに取り組んでいるからといって、何もすべての患者さんの薬歴がSOAPで埋まる必要は全くありません。出来なかったら遠慮しないでSやOだけの薬歴のままでいってください。(これがいわゆるSOSというやつですね。)悩んで余計な時間をかけることなく、次の人のケアに取り掛かってください。
「欲張らない」にはもうひとつの意味があります。こちらの方がなかなか勇気の要ることなのですが、特に開局薬剤師の方は重要なポイントです。
それは、いくつかプロブレムに気が付くことが出来ても、そのときのケアでは、最重要のプロブレム一つだけにするということです。これは何故かというと、あれもこれもお話していると、患者さんは最初の方に話したことはもう忘れています。限られた時間の中で患者さんに納得していただくためには、ポイントを絞ることが絶対に必要です。
もう一つの観点としては、「あれもこれも大切だから、言っておかなくっちゃ。」と思って患者さんとお話しているときは、我々の頭の中はブロッキングの固まりになっています。患者さんが何を言っても多分聞いていないでしょう。聞けなくなってしまうのです。そんな状態でいくら長く話しても、全く効果はありません。それならば、気が付いたことはプロブレムリストにはあげておくことにして、今患者さん自身が一番気になっていることにテーマを絞って、そのことを解決へ導けるように、考えていってください。
患者さんにとって一番気になることが変わっていったら、こちらもそれについて行く。
たとえば、前回いらした時にある程度ケアがうまくいき、薬識に多少なりとも影響を与えることが出来たとします。患者さんはすっきりとした顔で帰っていきました。うれしいですよね。
そして2週間後。こちらとしては前回のフォローをしたいわけです。そして「この前の〜は、その後どうですか?」と聞いたとします。すると患者さんはそれには生返事で「あああれね。そんなことより〜〜……。」と全く別の話を始めてしまいます。(ありますよねこんなこと。)その時我々はどうしたら良いかということなのですが、前の話はあっさりと忘れて、今、患者さんが気になっていることをよく聞いてさしあげてください。
こちらの気持ちとしては、前回のその後が気になるので、話が一段落したところで前の話に戻したいところなのですが、患者さんの気持ちが他へ移っているということは、既に患者さんの薬識は違ったものになっているということです。薬識が変わっている以上、前回のときの薬識を前提とした問題は、既にピントはずれになっているわけです。前回のことはあっさりあきらめて、新たに患者さんの薬識に着目して、何を必要としているのか考えてみてください。ただし、前のプロブレムがどうなったのかの考察は、しておく必要があります。解決したのなら解決ですし、薬識の変化により他のプロブレムに変わっていたのならそう記録してください。ただそれはこちら側の問題です。患者さんのお話は、ブロッキングを注意深く避けながら、よ〜くうかがってください。
各自3つくらいずつ(最低1つ以上)SOAP遊びを作ってみてください。
グループ内でそれを見せ合って、(全員が1つ以上)直した方が良いところはないか、プロブレムは何か、グループ内で話し合ってください。(プロブレムはわからなくても結構です。)
その中で出た、意見(わからないところや質問なども含めて)や議論を、その議論の元になったSOAP遊びの実例と共に、各グループ発表していただきます。
それに対して、全体討議を行っていきたいと思います。
【グループ発表】
第1グループ
最初は、
S) | 本が読みたいなあ。 | |
O) | 家に帰って読書する時間を持てない。 | |
A) | 眠る時間を読書にまわせば良いんじゃないか。 | |
P) | 朝早起きして少しでも本を読もう。 |
というのを作りましたが、グループで話し合った結果、次のように直してみました。
S) | 本が読みたいなあ。 | |
O) | この2週間本を全く読んでいない。家に帰ると疲れて寝てしまう。 | |
A) | 夜だと疲れてしまって読めないが、朝なら読めるだろう。 | |
P) | 今より30分早く起きて読書をしよう。 |
より具体的な記述の方が良いだろうということで、このようになりました。
[コメント及びディスカッション]
より具体的にというのは、正しいと思います。これを書いた人の気持ちになって考えてみましょう。この人は本を読むことを楽しみたいという意味で本を読みたいと思っているのでしょうか、それとも義務感でもっと勉強しなきゃいけないとおもって本を読みたいと言っているのでしょうか。
(発表者)両方です。
そうですか。その違いによって多少変わってくるとは思います。感情への着目をして、プロブレムの抽出の仕方、SからPに至る思考の流れをすっきりさせると、他人が読んだときすっきりわかりやすいSOAPになります。このSOAPを読むと、なんとなく義務感の方が多く伝わってきますね。
Q. 本が読みたい気持ちが中心だったら、具体的にはどう変わるのでしょうか?
A. アセスメントが「朝なら読めるだろう」だと、プランは「早く起きて読書をしよう」にしか持っていけませんね。仕事のある日は疲れてしまって本が読めないならば、「休みの日に1日本を読むぞ」とか、「明日は休みだから、一日読書の日にしよう」といった方向へもっていった方が、読みたいという気持ちが伝わってくるかもしれません。
第2グループ
S) | 勉強は自分でやる。 | |
O) | いつもマンガを見ていることが多い。 | |
A) | 受験が心配だ。 | |
P) | 勉強を誰かに見てもらおう。 |
というのを作ってみましたが、誰の問題なのか明確になっていないという意見が出ました。多分親の問題だろうということで、
O) | このごろ成績が伸び悩んでいる。 |
A) | マンガやテレビばかり見ているから成績が上がらない。 |
P) | テレビ、マンガの時間を約束して決めよう。 |
としてみました。
[コメント及びディスカッション]
これは非常に良い例ですね。最初のSOAPは、範囲が広すぎてプロブレムが絞り切れていないのだと思います。ところがアセスメントでは「受験が」と対象を限定してしまっています。このギャップが全体を分かりにくくしているのだと思います。受験に限定するのなら、SやOを取るときにもう少し範囲を狭めて情報を取り上げるべきだし、「勉強しない」ことを心配しているなら、後で直したSOAPの方が良いと思います。
これは、プロブレムに着目するときに焦点を絞り切れていないから起きることです。「この点を取り上げよう」と目標を定めていけば、後はすっきり書けると思います。実際の現場でSOAPが書けなくて詰まってしまうのも、これが原因のことがほとんどです。つまり、なんとなくこれだなと思っているにもかかわらず、SOAPのどれかがそのポイントからずれた取り方をしてしまっているのです。すると、そこから先に進めなくなってしまいます。
第3グループ
S) | エンストして止まってしまった。 | |
O) | バッテリーは新品だし、ガソリンは満タンだ。 加速していた時に、突然ガンと止まってしまった。 |
|
A) | タイミングベルトが切れたのではないだろうか。 | |
P) | 廃車にしよう。 |
ディスカッションではこのプロブレムは何かということで「車がエンストして困っているだけ」なのか、「ぼろ車が壊れてしまって、直そうかどうしようか」なのかわからないという意見が出た。
[コメント及びディスカッション]
Q. Sで「エンストしてこんなところで止まってしまった。こまったなあ・・。」とか、あるいは「エンストしてしまった。直すのにお金がたくさんかかってしまうかなあ。」とかした方が、その先が明確になって続けやすいのではないか?
A. そうですね。このSOAPもプロブレムの範囲を絞りきれていないのと、そのための情報の取り方が一貫していないところが問題だと思います。このSやOやAからは、「なぜ車が壊れたか」を問題としているように読み取れます。しかし、Pでいきなりその後どうしようかという問題に変わってしまっています。
あるいは、「廃車にする」というのをプランにもってきたいのなら、Sを「このぼろ車、とうとう壊れたか」のようにするとか、あまり高い修理費はかけたくないということがわかるような情報を取り上げて欲しいですね。すると例えば、
S) | このぼろ車、とうとう壊れてしまった。 | |
O) | 加速していた時に、突然ガンと止まってしまった。燃料や電気系統は問題ない。 | |
A) | たぶんタイミングベルトが切れたのだろう。 だとすると多額の修理費が必要になるだろう。このぼろ車にそんなにお金かける のもったいないな。 |
|
P) | 廃車にしよう。 |
という感じにすると、わかりやすいですね。
第4グループ
S) | 仕事でのミスがこのところ頻発しているので気持ちが沈んでいる。 | |
O) | 解決しなければならないことがたくさんたまっている。 | |
A) | ちょっと欲張りすぎたかな。 | |
P) | 時間を作って頭を整理しよう。 |
ディスカッションではこのAだと他の人が見たときになんで欲張りすぎたのかわかりにくいという意見が出ました。そこで、
A) | 問題をためすぎたため頭が混乱しているのだろう。 |
P) | 一つずつ解決していくようにしよう。 |
としてみました。
もう一つ、
S) | 肩がこったな。 | |
O) | 肩のあちこちにしこりが出来ている。 | |
A) | 仕事が忙しかったからなあ。 | |
P) | マッサージして肩をほぐそう。 |
これも、肩凝りそのものを解消したいのか、肩が凝る原因を取り除きたいのかはっきりしないという意見が出た。原因を取り除きたいなら、Pを「仕事を休もう」にしたらどうかという意見だった。
[コメント及びディスカッション]
そうですね。後の方を先に見てみますと、Pを「仕事を休もう」にしてしまうと、物事を解決していく方向としては、前向きな感じがしないですね。それよりは、「同じ仕事ばかりずーっと続けないで、いろいろな仕事を交互にやるようにしよう」のほうが良いですね。そうすると、これは肩凝りの原因を解決するための分析になります。すると
S) | あ〜疲れた。 | |
O) | 肩が凝った。あちこちしこりになっている。 | |
A) | ちょっと根を詰めすぎたかな。 | |
P) | 同じ仕事ばかりずーっと続けないで、いろいろな仕事を交互にやるようにしよう。 |
とするとかなりすっきりします。
最初の方はどうでしょう。Aで「欲張りすぎ」といきなり言われても、何を欲張ったのだか読んでいる人にはわからないですね。例えば、
A) | あれもこれも欲張りすぎて、かえってミスが増えてしまったかな。 |
P) | やるべき事は計画立てて、一つ一つ解決していこう。 |
の方がわかりやすいかもしれません。そうするとこのプロブレムは「仕事の欲張りすぎによるミスの連発」あたりでしょうか。
前にも申し上げましたが、プロブレムはアセスメントの親玉です。「何をどう考えたか」が「その問題点をどう認識しているか」をそのまま表しているからです。そして、そのアセスメントを導き出せるようなSやOを取り上げて行けばいいわけです。ここまで考えがまとまっていれば、Pは自然に付いてくるでしょう。
それとSに「気持ちが沈んでいる」と書いてありますが、せっかく感情表現を取り上げたのに、SOAP全体の中では、その感情に対するケアは何も考慮されていません。この分析に持って行きたいなら、「気持ちが沈んでいる」はなくても良いかもしれません。感情へのケアをメインにしたいなら、「よし、気を取り直してがんばろう」とか心の動きをうまく取り上げたSOAPにしていった方が、わかりやすいと思います。
Q. 感情の言葉は残しておいた方が良いと思うのですが・…。
A. その方が、ミスが続いているという事実がその人にとってはどういう事なのかがわかると思います。
Q. Sを「このところミスが続いているなあ・・」というようにしていったらどうですか?
A. 感情への着目はとても大切なことです。特に保険調剤薬局でのケアを考えるとき、心の持ち方に対するケアは、その中心といっても過言ではありません。このように考えたときに感情に対するケアなのか、事柄に対するケアなのか、はっきり分けた方が分析の練習としては良いと思うのです。ただ、プロブレムの取り方のコツとして、「同じ解決方法のものは一つのプロブレムにまとめると良い。」ということがあります。したがって、現実には気持ちが沈んでいる理由はミスが連発しているからなので、ミスが減れば気持ちも晴れるというわけですよね。そういう意味で一つにまとめ、感情表現は情報の一つとして入れておいた方が良いという意見は、それはそれで正しいと思います。
そうすると、Sを「このところミスが続いているなあ・・」のようにしてしまって、ミスが連発しているという事実はOに持っていってしまうというのも一つの手ですよね。今はあくまで練習ですから、いろいろな考え方にしたがっていろいろやってみると良いと思います。
Q. 全体的なことなのですが、薬識をOに入れるというようになっていますが、薬識はその人の認識ですから、Sに入るべきではないでしょうか?そして、「この人はこんな薬識を持っている」というのはAに入れるべき事なのではないでしょうか?
A. その考え方自体はそのとおりだと思います。ただし、POSはあくまで患者さんのQOLを向上させるためのツールです。すると、今目の前にある状況(例えば、QOLのゴールへ向かうためには好ましくない薬識を持っている人に、好ましい薬識を提示していきたいと考えた場合など。)では、薬識の現状はアセスメントやプランをしていく上での前提となる事実として捕らえないと、うまくいかないことがあります。そんな時は「いまこの人の薬識は〜である。」というように、Oとして取り上げた方が良いと思います。
Q. 「おなかが痛いよお」となった場合はSだとおもうのですが、「顔色が悪い」という場合、SなのかOなのか迷うときがあります。そんな時にS/Oと書いていっしょにしてしまっても良いのでしょうか?
A. 良いと思います。もう一つよくやることは、A/Pとしてアセスメントとプランを一緒にしてしまうことです。これも良く分からなくなったら、あるいは、厳密に分けることが出来ないのなら、全くかまわないと思います。
このあたりは、POSがなかなかうまくいかない理由の一つでもあると思うのですが、原則にとらわれすぎて「本来の目的=患者さんの利益を増す(QOLの向上)」ということを忘れがちになってしまうことです。あくまで、考え方をすっきりさせるためにSOAPを分けて考えてみましょうということであって、分け方がわからないからといって、肝心のケアの方が止まってしまったのでは、全く本末転倒です。ルールはルールですが、患者さんの利益を第一に考えて、本来の目的に添った形である程度臨機応変にやっていきたいと思います。
以上ありがとうございました。
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