つくばファーマシューティカルケア研究会
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つくばファーマシューテイカルケア研究会
第4回 定例会報告

  • テーマ:薬剤師の患者さんへのアプローチ〜医療はコミュニケーション〜
  • 日 時:平成9年11月12日(水) PM7:30〜10:00
  • 場 所:並木公民館音楽室
  • 参加者:13名  薬局薬剤師/7名  病院薬剤師/6名

担当:岡村祐聡

はじめに

**今回はワークショップ形式にて定例会を進めていきたいと思います。次の点についてお約束お願いします。

コミュニケーションを学ぶ必要性

医療をとりまく社会背景の変化

a)疾病構造の変化


過去は結核など急性の病気が相対的に多かったが、現代では成人病、生活習慣病、慢性疾患が増えた。病状の変化がゆっくりとした経過であり、初期の頃は大半が無症状のまま進行する。つまり、なかなか死なないが治らない病気が増えた。その結果医療の役割が、cure(救命救急)からcare management(生活のお世話をする)へと変化した。
医療の目的はQOLの向上である。QOLというのは患者さんの心の中にある。患者さんの人生観そのものが医療の最終目的となっている。この場合、医療者の側から「あなたの人生はこうです。」と押し付けることが出来ない。目の前にいる患者さんからその方の人生観をお聞きして、それを実現するためにはどうしたらいいかを患者さんと一緒に考えなくてはならない。そのためにはコミュニケーションがうまく取れて、まず患者さんのケアの目的地をお聞きすることが出来なくては、ケアを始めることすら出来ない。

b)医療情報の増加

マスコミから井戸端会議まで色々な情報源により、患者さんは非常に多くの情報を持っている。テレビで見た最先端の医療技術について、診察している医師より詳しいこともある。しかし、素人が聞きかじった情報なので、正確さや客観性の点で問題があることも多い。
また、慢性、習慣性の病気が増えたため、病状の進行や予後についていろいろなケースが身近に散見できるようになってきた。そのため医師も目の前の患者さんの予後についてはっきりしたことが言えなくなってきた。

例えば、血圧が高い患者さんに、
「ちゃんと薬を飲まなくてはあと何年も生きられないよ。」
と言ったとすると、
「何言ってんですか先生。隣のおばあちゃんは血圧200もあるけど90歳の今でもピンピンしてるよ。」
と言い返されたりしてしまうこともある。こういった状況で患者さんに納得していただいてきちんとしたケアを受けていただくためには、的確なコミュニケーション技法を用いることが出来なくてはならない。

c)権利意識の増大

早くから国民皆保険制度が整備されている日本では、保険医療を受けることが当然の権利であるという意識が強い。さらにマスコミ等の影響で患者としての人権や、治療に対しての自己決定権を主張するようになってきた。
きちんとした理解が無いままに権利意識だけが強く、医療の立場からは(実は本人にとっても)望ましくない選択を主張するような事もある。こんな時、正しい情報を正しく患者さんに理解していただくために、コミュニケーション技法が重要となってくる。

d)価値観(死生観)の多様化

患者さんの持つ価値観が非常に多様化しており、どういう形がベストなのかを医療者の側から一方的に押し付けることが出来なくなってきている。延命治療の是非やQOL(生活の質)に対する認識が多様になっている。こういった状況のときには、患者さんの自己決定型の医療を医療者が支援できるような体制が必要とされる。

治療者患者関係のシフト

SzaszとHollenderによる分類から、治療者と患者の関係は次の3つのパターンに分類される。
能動-受容
activityーpassivity(一方的に治療を行う。救急、患者の意識が無い時等)
指導-協力
guidance-cooperation(一見きちんと説明しているようようだが患者に選択の余地はなく主導権の大半は医療者にある。)
協同作業
mutual-participation(文字どおり患者と医療者の協同作業)
現在の日本ではほとんどの医療が2つめの指導ー協力関係で行われている。インフォームド・コンセントという言葉もこの指導ー協力関係の中で語られることが多い。治療方針等は既に医師の中では決定しており、それを患者さんにきちんと説明したかだけが問われている。
しかし、疾病構造の変化から、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が多くを占めている現在では、この形では治療を成功させることが出来なくなってきている。これらの慢性疾患では、初期で軽症のうちは自覚症状がほとんど無く、患者さん自身が自己決定により生活習慣を改善し、薬を飲む気になってくれなければ治療することは出来ない。このような場合、3つめの協同作業型でなければ治療は成功しないことになる。

患者さんが薬を飲むのか飲まないのかは、患者さんが薬を飲むということを自分にとってどれだけ重要なことだと認識しているかで決まってくる。これも薬識の大事な部分であるが、薬を飲むことを重要なことだと思っていれば、飲み忘れることはとても少なくなるはずである。飲み忘れる理由はいろいろあるわけだが、その一つ一つの理由よりはその元となる薬識の方がコンプライアンスの向上のためには大きな要素である。
薬識を「自分にとって重要な薬である」というように変えてもらうためには、やはり患者さんが自己決定によって行動変容する必要があり、自己決定を促すためには的確なコミュニケーションと支援が必要となってくる。

コミュニケーションの目的の拡大

これまでのコミュニケーションの目的は、主に情報収集であった。つまり、病歴を知り、患者を知り、その家族を知り、現在の病状を知ることである。これらは今も大切なことには変わりがない。きちんとしたコミュニケーションがとれた状態でないと、正しい情報が得られるとは限らない。
しかし、治療者と患者の関係が協同作業型に移行していくと、信頼関係の確立、感情面への対応、患者教育と治療への動機付けなどがさらに大きな目的として大切になってくる。

日本人には「イイ子」特性を持った人が多い。例えば糖尿病の教育入院を例に挙げると、入院中はとてもコントロールの良い人でも、退院してからもそのコントロールを保てる人はわずかしかいない。それは、「イイ子」である患者さんが、病院内では医療者に対して「イイ子」になろうと行動するため、生活注意も守りコントロールも良くなるが、退院して日常生活に戻ると、会社の人々や家族など日常生活の中での人間関係において「イイ子」になろうとする。したがってお酒に誘われれば付いていき、食事に誘われれば付いていき、してしまい、血糖のコントロールは二の次になってしまう。
これは病識の欠如(不足)もさることながら、しっかりとした薬識が形成されてないために、服薬の重要性が相対的に低くなってしまい、日常生活を優先してしまうからである。自己決定による治療への動機付けがある場合には、日常生活の中にあっても病気の治療というもの認識、飲んでいる薬に対する薬識に変化があり、生活改善や服薬に対する認識の重要度を増すことが出来る。
治療への動機付けが強く出来るかどうかは、医療者と患者さんとのコミュニケーションの良し悪しに関わってくることになる。そして、お互いに持っている情報を見せあって、ケアの方針を交渉(negotiation)し、合意する。その後契約により患者自身が治療にあたることが大事になってくる。

これまでは医療者が持っている情報をどう開示したか、どのように患者さんに対して提供したかに重点がおかれていたが、共同作業型ではお互いの情報を交換しあう必要がある。患者さんから得る情報とは、患者さんの薬識であり、病識であり、患者さんにとってのQOLであり、患者さんの特性である。医療者側が治療に対する情報(薬剤師であれば薬に関する情報)のみを与えるのでは、共同作業型は成り立たない。この情報のやり取りにコミュニケーションがとても大切になってくる。

コミュニケーションは挨拶から

挨拶もケアの一部。第一印象を決めるのは最初の挨拶。ただ「する」だけでなく、心を込めて、そして効果的な挨拶を心がける。
[ワーク]いろいろな挨拶を体験してみる。

ランダム挨拶ワーク

自由に歩き回って、出会った人と挨拶する。普段は無意識にやっていることでもあらためて挨拶と照れくさかったり、いろいろな気持ちを持つものである。日常的に患者さんと接するときも、自分は普通のつもりでも、相手は違う感情を持っているかもしれないということを体験してみる。

ランダム握手ワーク

自由に歩き回って、出会った人と握手をしながら挨拶をする。握手という行動が加わったことにより、又違った感覚がお互い感じられるはずである。人間関係の中で感じる感じ方にいろいろなものがあることを体験する。

ランダム握手ワーク-相手の目を見ながら

上記に加え、相手の目をしっかりと見ながら挨拶、握手をしてみる。よく相手の目を見ながらといわれるが、日常的にしっかりと相手の目を見ているのかどうか。自分の側が恥ずかしがって目をそらしてしまったり、相手と積極的に関わっていこうという姿勢がなく、腰が引けていると、信頼関係を気づいていくことは難しい。

ランダム握手ワーク-声を出さずに

上記を無言でおこなう。今度は声を出さずに、親しみ、会えたうれしさなど、相手に対する関心を相手に伝えるように握手、挨拶をする。これだけのワークを体験してみただけで、日常的に当たり前と思っているコミュニケーションが無意識でやっているのと、ちょっと意識してやってみるのとで、ずいぶん感じ方のギャップがあることに気づくことが出来る。

グループワークでのふりかえり

行動、表情、念いなどで自分の気持ちが相手に伝わったか、伝わったと感じたか、相手の気持ちが受け取れたか、受け取れたことを相手に返すことが出来たか、などをふりかえる。

[グループ1]

[グループ2] [コメント]

非言語コミュニケーション

医療行為におけるコミュニケーションは言語2割、非言語8割と言われている。
言葉そのものよりも、言葉の裏にある隠された感情を感じとることが必要。口では「大丈夫」と言っている患者さんも、心の中ではSOSを発信しているかもしれない。言葉とは裏腹な感情を受けとることが出来れば質の高いケアを提供できることになる。何かを質問してきたとしても、その質問の元にある感情を考えて受けとることが大事。

薬局の窓口での例だが、ある糖尿病の患者さんがお酒をかなり飲みすぎてしまって、コントロールが悪くなり、医者にも叱られ、自分でも自己嫌悪を訴えていた。ところがそのとき、対応した薬剤師が、言葉とは裏腹な非言語の訴え(表情が暗かった)を感じとり、
「どうかなさいましたか?」
と聞いてみた。すると、実は身内の人がつい最近無くなったばかりで、その悲しみ、さびしさ、つらさも手伝って、葬儀から始まっていつもは控えているお酒を飲みすぎてしまったことを話してくれた。言語の部分だけに頼っているとこの話は聞くことが出来なかった。
話を聞くことが出来るか、出来ないかの差はものすごく大きい。

[ワーク]非言語コミュニケーションを体験してみる。

1.距離

2人一組みになって、5m、3m、1.5m、0.5m(位)の距離をとり、向い合って挨拶をする。どの距離が一番快適に出来るか体験する。

[解説]

○社会的距離には4種類の距離がある。

  1. 密接距離・・・・・・・恋人同志、赤ちゃんと母親
  2. 個体距離・・・・・・・夫婦、親友
  3. 社会距離・・・・・・・通常の人間関係
  4. 公衆距離・・・・・・・大きな声を出さないと伝わらない。
○快適さには個人差がある。患者さんにとって快適な距離は、医療者の一方的な判断では分からない。

2.向き

次の3通りに向い合って椅子に腰掛け、目と目をあわせて挨拶をする。

[解説]

○1、2、は視線をあわせるのに緊張を伴う。3が一番無難な方向。
○効率良く患者さんをさばくには1が良く、じっくりと話を聞くときには3が良い。

3.視線、沈黙

(ワークは省略)
二人で向い合い、目と目をあわせて30秒間見つめあう。その時、以下の点を守る。

[解説]

○日本人にとって視線をあわせることはかなりの緊張を伴う。しかし、目を反らしてばかりいると信頼を得ることが出来ない。患者さんの様子を良く観察しながら、患者さんに負担をかけないような配慮が必要である。
○医療者は沈黙にたえることが出来なくてはならない。患者さんが葛藤のなかで心の整理をしているときなど沈黙が必要となることがある。沈黙にたえられるようになるためには(患者さんに気づかれないように)大きく深呼吸をして、その数を数えると良い。→効果的な沈黙

非言語コミュニケーションの成功体験

(ワークは省略)
1.指さしゲーム

2人一組みで好きな距離で向い合って、お互いに声を出さずに、一方の人が空間のどこかを指さして、自分の指したい位置を無言で知らせる。もう一方の人は相手が指した空間を自分も無言で指さして、「ここで良い?」と聞き返す。お互いに無言のままでこれを繰返し、相手の気持ちが伝わったか、伝わったことを相手に返せたかを体験する。

2.アクションリアクション

2人一組みで好きな距離で向い合って、お互いに声を出さずに、一方の人が何かを相手に伝えようとする。もう一方の人は、相手の伝えたいことを出来る限り受け取ろうとして相手のアクションにリアクションを返す。これを繰り返しながら、気持ちが伝わったか伝わったときどう感じるかを体験する。

ふりかえり

○非言語コミュニケーションを体験してみてどう感じたか。
○日常業務の中で非言語コミュニケーションの重要性を感じた事例。
○明日からの業務へのフィードバック

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