つくばファーマシューティカルケア研究会
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つくばファーマシューテイカルケア研究会
第14回 定例会報告

  • テーマ :QOLについて
  • 日 時:平成10年12月16日(金)PM7:30〜9:30
  • 場 所:並木公民館 音楽室
  • 話題提供者:渋谷 憲司・仁礼 久貴

<目次>

   QOL」について考える   その@          渋谷 憲司

    QOLについて       そのA          仁礼 久貴

QOL」について考える   その@渋谷 憲司

いろいろと議論していくためにまず“医学”ではどう考えられてきているのか考えてみよう。

サイエンス、アート、哲学・・・何だかよくわからん??

「それは当然のことだ!」と考えるかもしれない、でもそこからスタート。

 

科学としての医学の底流とすべき価値感とは(1)

@医学を病む人間に回帰させる。

   医学の発達:practice of art of medicine(医術)からのスタート:医のパフォーマンス

                            ↓(おきかわる)

                      science  of  medicine20世紀以後);病い、検査 に焦点!

                                                        

                     biomedical science   21世紀):生命科学

医学の対象が「病む人間」から「病む臓器、細胞」へと変化。

                         ・・・どーも人間が忘れ去られがちに。

 

 医学は個としての人間を扱う科学である。 :地上には誰ひとりとして同じ人間はいない。

   医師は細胞のダメージだけではなく、病む人間、すなわち病む体と同時に病む心や魂のために働くものでなければならない。また、医学は人のいのちの長さの延長を目指すだけでなく、生存を許されている病人のいのちの質(QUALITY OF LIFE)にもっと関心を払うべきである。医学に携わる医師は、もっとQOLを理解する熱意をもたなければならない。そして、医師はもっといのちの質についての配慮を深めて患者に接する態度が求められる。

 

A「ケア」とは人間の威厳を認めること

患者の疾病は、一部を除いては今日の進歩した医学をもってしてもこれを治癒させる、cureさせることはできない。それにもかかわらず医学はcureをゴールとして取り組んできた。

   ハーバード大学Francis Weld Peabody careの重要性を医学論文で初めて述べた)

     「臨床医に本質的に要請されるもっとも重要なもののひとつは患者のケアでこれは医師がもっと人間性に関心をもつということである                            

   病む人、悩みをうけている人に大切なものは、cureのほかにcareである。

人間性を考えるということは、その人のQuality  Of  Lifeを尊重すること、人間の威厳(dignity)を認めることである。…ちょっと難しい!

 

B第4の医学としてのQOL

QOLという言葉は、「より良く」という価値観から使われるようになった。

1970年代から急速に医療分野でも使われるようになった。

医学のゴール

1、 ToPrevent  (予防)     

2、 ToCure     (治癒)

3、 ToProlong Life  (延命)

これに第4の医学として

4、 Toimprove Quality of Life   (QOLの改善)が加えられてきた

C患者が価値ある生を生き続けられるように

QOLには、人の生命をどう大切にするかという生命倫理に直結する問題とともに、今目の前の患者または障害者にどうすれば悩みを軽くさせ、生きがいを与え、より充実した気持ちで人生を過ごすことができるか、つまり、その人の生活の質を考えることが重要であるという視点が新たに加えられたのである。

・・・・どういうケアをしていけばいいのか?

つまり、具体的にいえば、いろいろの医療手段をどう活用すれば、今まで普通にあったものが失われずにすむかということであり、また、どう医師や周囲のものが患者に配慮すれば患者はよりレベルの高い行動ができ、身体活動や精神生活の上で疾病や障害による苦しみやハンディキャップのために自らをみじめに感じることが少なくなるかということなどが取り上げられる。

そして、たとえ当人に短い命しか許されないとしても生きがいのある生活をどうすればできるのか、その生活のあり方の質をできるだけ高くさせようとする周囲のものの配慮が当人の生活の質を高めるという結果をもたらすのである。

患者ができるだけ格調高く、価値ある生を生き続けられるように考える事が

QOLの真髄である。

Dサイエンスに支えられたアート

人的医学、holistic medicineは手や足だけでなくまた胃や心臓といった臓器だけでなく、肉体と心とを併せもつ人間全体を考える医学である。

その個々人が人間として生きるうえでのいのちの価値を、患者も医療者もともに大切に考えなければならない。

いままで…サイエンス(自然科学的側面)としての医学は「生きることの意味」についてはタッチしてこなかった。科学には意味付けや価値といった観念は入る事はないと考えられてきたから。

                                 

                  その延長上に「医学」を位置付けた

   しかし…医学を実践する医術<art of practice of medicine>は、その患者さんとのふれあいのなかで、患者の心の価値の世界にまではいっていくことが許される。(人文科学的側面)。 

                      

          となれば、医学、医術は純粋なサイエンスではなく 「医術は、サイエンスに支えられたアート」と理解できる。

           …なんとなくイメージできた??

           すなわち、医学はそれが心と体をもつ人間を扱う科学、すなわち「人間科学」であるがために、その中に人文科学をもちこ まなければならない。

                      

          特に致死患者の末期には、死への移行のステージでの命の評価は 長によるものではないし、生存を価値つけるバリューシステムによって測られなければならない。value:価値 つまりこの時点では、科学としての医学は、科学だけでは存在意 義はない。哲学や宗教を含む人文科学といわれるものと同じ枠の中で“人間”を扱うべきなのである。

            ・・・ファーマシューティカルケアを考える意味でもひとつのヒントになっているかも。人文科学的部分のケア。  

Eよく生きること…ここからは哲学の話だー!

ソクラテス

「大切にしなければならないのは、ただ生きるということではなくて、よく生きるということなのだ」

   価値論を最も深くとり扱った哲学者カント

      「人間の欲求を満たすものは市場価値をもち、興味を満足させるものは 感情価値をもつが、これらは何れも外的で相対的な価値であり…・そ れに反して、道徳的であり得る限りでの各人の人間性は、何にも置き換えられない内的にして絶対的な価値をもつ」という。

   この価値が尊厳であって、人格の尊厳を強調するカントは道徳的価値を最高の価値とみている。

 

F病む者の生きがい

価値は人間を離れては存在しない。価値は、価値を感知する人間の存在をもって初めて存在する。いのちの価値は、その人その人により違ってくるのは当然であるが、リッケルトは真善美といった価値そのものは、客観的に存在し、価値の客観性を妥当性という言葉で表現している。

新カント派リッケルト

  「人間の精神的価値に満足をあたえるものとしては、論理的価値(真)、 道徳的価値(善)、美的価値(美)、宗教的価値(聖)などが区別される」

     病む者には、以上のうちいずれかが心の支えまたは生きがいをつくる。 

 個々人のいのちに関する姿勢は、それぞれの人がもつ生きることの意義に伴う価値観によって支配される。

G医学が目指す最後の課題

医学が単なる「サイエンス(科学)」に終わらず、病む人々に接する技を心得た「アート」がそこに加えられることにより、その医学の実践は、近代科学の時代においても患者を支える医術としてますます発展していくことだろう。

その意味でも、あらゆる医療行動の中に、患者のQOLを尊重し、その人にもっとも望まれるQOLの獲得に臨床家は応えていかなければならない。

       医師または臨床家にとって最も必要なもの

                     

 患者やその家族に対する慈しみ深い思いやりの心、つまりcompassionateな心や態度

 その態度のうちに患者との接点が用意され、サイエンスである知と高度なテクノロジーが医療者のcompassionateな態度の中で患者に適用されていく。

それこそが、医学がめざさなくてはならない今後の課題である。

参考文献:日野原重明、江郷洋一、武藤正樹、萬代隆:薬剤のQOL評価と応用、薬業時報社発行、1997.(1) 科学としての医学の底流とすべき価値観とは日野原重明 (聖路加国際病院名誉院長・聖路加看護大学学長)

 

 QOLについて(2) 仁礼 久貴

〈QOL〉の一般的概念
生が置かれた状態の評価
cf.「生き方がよい」「充実して生きている」
環境か・満足度か

〈環境の中で生きる〉という枠組み
QOLは環境の評価
1. QOL評価は何のためになされるか
------環境の改善の要・不要を検討するため。
2.満足・不満足はデータ------フィルターにかけて抽出されるのは要因としての環境
の評価。
3.評価自体は「主観的な」満足・不満足であるとしても、 QOL評価の物差しは公共的
に認められるもの。


〈QOL〉の一般的定義
QOLとは、環境がそこで生を営む人の人生のチャンスないし可能性(選択の幅)をど
れほど広げているか(言い換えれば、どれほど自由にしているか)、の評価である。

医療におけるQOL
医学的QOL評価の対象は身体環境
医療が医学的関心のもとで注目するのは、当人を取り巻く環境ではなく、当の人自身
というその人の生きる環境=〈身体環境〉
医学的QOL評価=身体環境がその人自身にどれほどの選択の幅・自由度を与えている


医療におけるQOL評価の対象
医療におけるQOL評価の対象は身体環境に限らない。


QOL評価の対象
身体環境:身体の活動能力、身体的情態(痛み、吐き気etc.) 心の機能(抑鬱、殲妄など)
意識環境:自分の置かれた状況を意識しているという場面での、心の情態(不安、い らいらなど) 自己の状況把握。
医療環境:医療側との関係、決定をめぐる自由度 病院という環境など。
人生環境一般:社会的、経済的状況、対人関係など
cf.緩和医療においては、身体的因子の他に、心理的、社会的、霊的(spiritual)因子
が挙げられる。

健康概念の書き直しと医療一般の目的
健康状態の評価= 評価の時点以降の人生を時間軸に沿って見通した場合に予測される身体環境のQOLの 総和(いわば積分)。

将来のQOLおよび余命の予想こそが、健康状態の評価の根拠。

医療の目的
医療活動は、対象となる人の今後の余命期間に亙る身体環境のQOLの積分を可能な限 り高めることを目指す

<参考資料>
『医療現場に臨む哲学』清水哲郎 http://www.sal.tohoku.ac.jp/~shimizu/PHMD/
index.html


 


第21回愛媛大学ターミナルケア研究会 平成5年6月28日

http://hypnos.m.ehime-u.ac.jp/Masuika/tci.html

癌患者の quality of life の評価(麻酔科蘇生科 木村重雄)

癌ターミナルケアと QOL(要旨)
-------------------------------------------------------------------------------
QOL についての議論
QOL の研究の目的には2つの流れがある。
 1)癌治療の評価の手段として治療法の選択の比較試験に応用する。
 2)ケアの評価に応用するもので,社会心理学,行動科学の視点が必要とされる。

1.誰が評価するのか?
 患者自身によるものと第三者によるものがある。一般的には QOL の評価は主観的
なものとされ,患者自身による評価が良いとされるが,この場合には客観性が問題と
なる。

2.いつ評価するのか?
 目的によって評価の実施時期は異なる。治療法の評価を目的とした場合には,治療
に時期に関連して行われるため問題は少ない。ターミナルケアに関する評価の場合,
定期的に検討されることが多いが,一日のうちでも患者の症状や気分は変動する。

3.何を評価するのか?
 QOL の構成要素について,Schipper は次の4項目を挙げている。
1)日常生活の作業能力
2)心理状態
3)人間関係と維持する能力
4)身体的快・不快感の程度
 多くはこの4項目を中心に調査表が作製されるが,これらの構成要素で十分である
かどうか?

4.如何に評価するのか?
 アナログスケールやカテゴリースケールによって数量化されて合計点で評価する場
合が殆どである。しかし,合計点が QOL を反映するかどうかは疑問である。QOL の
評価にはある程度の数量化が必要であるが,本来 QOL は量で表せないものなのに,
数量化して評価するのにはどうしても無理がある。ターミナルケアでは"その人らし
さ"を重んじることが非常に重要であり,QOL を高めるためには,一人一人違う患者
が何を望み,何を必要としているかについて理解を深めながらケアを進めることが重
要である。


 以下に一番簡単な QOL の質問表を示す。


Quality of Life 質問表(Fayears) -------------------------------------------------

症状(嘔吐) 活 動 状 態 気 分
1. なし
2. 軽度の食欲不振
3. 気分はよくないが症状はなし
4. 一度症状あり
5. 何度も症状あり
1. 正常活動可能/家事可能
2. 努力して正常活動可能
3. 活動力低下,軽労働可能
4. 家(病院)から出られない
5. ベッドから出られない
1. たいへん幸せである
2. 幸せである
3. 普通
4. 不幸である
5. たいへん不幸である
不 安 感 全 般 状 態  
1. 非常に落ち着いている
2. 落ち着いている
3. 普通
4. 不安
5. 非常に不安
1. 非常に調子が良い
2. 調子が良い
3. 普通
4. 調子が悪い
5. 非常に調子が悪い
 

------------------------------------------------
参考文献
1)柏木哲夫:癌ターミナルと QOL  週刊 医学界新聞,1993年6月14日
2)古江 尚:進行癌患者の Quality of Life その評価の方法と問題点 癌と化学療
法,14:1-10,1987



『QOL その概念から応用まで』漆崎一朗・栗原 稔 監修
QOLの定義の共通部分
(1) 身体的側面
(2) 社会的側面
(3) 心理的側面

QOL研究会 http://www.q-life.org/
「難病の緩和医療の進歩と今後ーQOLの向上に向けて」http://www.saigata-nh.go.
jp/nanbyo/koho/sympo.htm
日時 :1997年10月28日(火)8:50〜17:20
場所 :国際研究交流会館 東京都中央区築地、国立がんセンター内
主催:厚生省「特定疾患に関するQOL研究」班(班長 福原信義)
共催:難病医学研究財団事務局 国立療養所犀潟病院内、「難病シンポ」事務局

パネルデイスカッション
  「難病患者の健康関連QOLの測定における諸問題ー特に患者ケアの評価への 応用
に関して」
IV−1 ケアサービスの開発・評価・改善戦略としてのQOL
帝京大学医学部 内科 橋本 英樹
QOLは患者の病気や治療の体験を包括的に捉えようというスローガンであり、その構
成要素を一義的に定義することは困難である。我々が心理学的尺度によって測定でき
るのは、患者の主観的体験の限られた側面であることを認識し、測定対象となるコン
セプトを選択する必要がある。
ケアを評価する道具としてQOL尺度が存在するとすれば、どんなコンセプトを測定す
るかは、評価されるケアの性質によって戦略的に決定されることである。しかし、こ
れまでのQOL研究の多くは、どんなサービスを評価するのかについて明確な目的性が
なく、「測定のための測定」に終始しがちであったきらいがある。より根源的な問題
は、生物医学的パラダイムに制約された、現行の臨床サービスの枠組みの中でのみ
QOLを論じようとしてきたことである。QOLなるスローガンは、測定対象を生物医学的
な枠組みから開放することと同時に、医療サービスの内容をも生物医学的な枠組みか
ら、より包括的な枠組みに転換することを要求しているはずである。
以上の問題を克服するために3つの対策を提示したい。第1に尺度開発以前の問題とし
て、サービス開発・評価・改善のための枠組み(PDCAサイクル)の中でサービスを見直
し、その評価作業としてQOL測定を位置付けなおす必要がある。第2に、患者のどのよ
うな生活側面に働きかけるために、どんなサービスが必要とされているかについて、
質的研究手法を用いた、詳細なニーズアセスメントが必要である。第3に、患者の社
会・心理的側面に働きかけるようなサービスの開発には、生物医学的な枠組みやヒ
ューマニズムのみに囚われないで、社会心理学、教育学、マーケッティングなどの理
論を用いた、学際的取り組みが必要である。心理学的尺度特性(信頼性、妥当性な
ど)の方法論的検討は、その後論議されても遅くはないであろう。

以上
 

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